セクハラ、ディズニーのFox買収に明け暮れた18年冬のTCAプレスツアー。トランプの悪政1年を耐えた疲労感、倦怠感は顕著ながら、背景化した感あり
2018年冬のTCAプレスツアーは、1月4日から2週間に渡り、パサデナにあるランガム・ホテルで開催されました。今回のツアーは珍しく地上波局から始まり、公共放送PBSで無事終了しました。
スケジュール
1月4日 Fox
1月5日 FX
1月6日 CBS/Showtime
1月7日 CW
1月8日 Disney ABC
1月9日 NBC Universal
1月10日 セット訪問
1月11日 ケーブル局 (HBO, Turner, AT&T Audience Network, BritBox)
1月12日 ケーブル局 (BBC America, ESPN, Starz, Discovery, IFC)
1月13日 ケーブル局 (YouTube, ナショジオ, AMC, AMC/Sundance Now, Hallmark)
1月14日 ケーブル局 (Hulu, POP, Crackle, A+E Networks, A+E/Lifetime)
1月15日 ケーブル局 (Paramount Network, Viacom Networks, Acorn TV, Snap, Inc.)
1月16日 PBS
1月17日 PBS
ストリーミング会社は、昨年夏からケーブル局のマーケティング団体CTAMに組み込まれたため、CTAM枠内に企画されるようになりました。但し、今回もNetflixとAmazonは姿を現しませんでした。新局は、英国作品のみを扱うBritBoxとパラマウント映画系のParamount Networkです。此の期に及んで、新たにテレビ局を開設する意味があるのでしょうか?
17年冬のTCAプレスツアーは、トランプ就任前だったため、各局が作品の中でいかにトランプ支持/打倒を表現するのか、特に米国大統領の役柄が組み込まれている作品の制作陣に質問が集中しました。ところが、蓋を開けてみると、トランプ嫌いを歯に衣着せず表明したのは、「グッドワイフ」のスピンオフ作品「The Good Fight」のみでした。トランプに一票を投じた事実を認め、’黒人の、黒人による、黒人のための’法律事務所に居た堪れなくなったジュリアス・ケイン(マイケル・ボートマン)の逸話は、’オバマランド’と呼ばれるシカゴの現状を物語っているのでしょう。去る3月4日に再開された「The Good Fight」シーズン2では、初っ端から「トランプ罷免」の言葉が飛び交い、「民主党支持のシカゴ市民が罷免に持ち込むための法的手続きに着手する舞台裏を描く」とクリエイターのキング夫妻は語りました。辛うじてとは言え、未だにホワイトハウスに君臨しているトランプの祟りは怖くないのだろうか?と制作陣の勇猛果敢さに仰天します。テレビ好きのトランプとは言え、何もかも観る時間はないでしょうし、ドラマの本数が多過ぎて、網羅し切れていないのでしょう。知らぬが仏(誰が?)かも知れませんね。
「グッドワイフ」シーズン1から、人種差別を訴えつつも、常に「こうもり」として描かれていたジュリアス・ケイン(マイケル・ボートマン)。スピンオフ「The Good Fight」には、’黒人の、黒人による、黒人のための’法律事務所の一員として再登場。トランプに投票した唯一の裏切者として爪弾きにされ、小さい事務所に一時避難する逸話があり、シカゴの現状を物語った。同作2では、第一話から元の法律事務所で投票権を持つパートナーとして活躍するが、「こうもり」ケインはいつ、どう寝返るか判らない。WENN.com
トランプ就任以来、米国は悪ガキを退治しようとあの手この手を打ったものの、何の効果もなく、辟易の頂点に辿り着いた被害者の疲労感と倦怠感に浸っています。異常が平常になって1年。根負けした反トランプ派常識人は、悪ガキに立ち向かうどころか、怒涛の毎日をやっとの思いでこなしているのが現状です。因みにこの「何をやっても無駄!」と認知し、闘う努力さえしなくなった心理状態を、学習性無力感/絶望感と呼び、鬱病の一歩手前と心理学者は定義しています。米社会も私生活でも、二進も三進も行かない状況に置かれた私は、今正に学習性無力感/絶望感のどん底です。但し、「もう、良い加減にして!」と叫びたいのは、私だけではないのだと、今回のプレスツアーで再確認しました。
しかし、今回のプレスツアーでは蔓延する「トランプ疲れ」は単なる背景と化し、昨年10月に発覚したハーヴェイ・ワインスタインに端を発したセクハラ訴訟、告発が引き金となり、業界でセクハラをどのように扱うかに焦点が絞られました。幸い私はワインスタイン兄弟と接触したことはありませんが、報道された時に、「それって、公然の秘密?」ではと思いました。しっかりと裏工作をして口封じしていたからですが、火のない所に煙は立たぬと言うではありませんか?ワインスタインやケヴィン・スペーシー、マット・ラウワー(NBCのニュースキャスター)の3人は「然もありなん!」納得組に分類できます。実際に会った人当たりの良い芸能人が次々と解雇処分され「ブルータス、お前もか!」組に入れたのは、FXコメディーの希望の星だったルイ・CK 、マーク・ハルパリン(「The Circus: Inside the greatest political show on earth」で活躍していた政治ジャーナリスト)、定年間近のチャーリー・ローズ(PBSやCBSで活躍していたベテラン・ニュースキャスター)です。この3人が活躍していた局が、即刻解雇処分したのは驚きで、ワインスタインのセクハラ騒動は、これまでとは全く異なる展開を見せています。業界の恥部をこの際に、根から切り取ってしまおうとの動きでしょうか?ワインスタインに限られていた時点では、俳優ビル・コスビーの前例があるだけに、いくら著名な被害者が名乗りをあげても、十把一絡げにされて、示談で処理されるのかと懸念していましたが、件数の多さと刑事事件として捜査中の申し立てもあって、ワインスタインはとんずらを決め込んだまま、卑怯にも姿を見せません。もっとも、この下地を築いたのが、内部告発でセクハラ容疑が浮上したフォックス・ニュースCEOロジャー・エイルズの辞任(退職金をたっぷりともらって)と、Fox局の看板男(超右派の)ビル・オライリーの解雇事件です。
今回のプレスツアーには、新作の番宣に駆けつけたミラ・ソルヴィーノ(AT&T Audience Networkの新作「コンドール」)とローズ・マッゴーワン(E!局の新ドキュメンタリー・シリーズ「Citizen Rose」)が、ワインスタインの職権を乱用したセクハラと嫌がらせの被害者で業界追放の促進力となった張本人です。
ミラ・ソルヴィーノは、ワインスタインの執拗な要求を蹴ったため、女優として羽ばたく前に翼を折られてしまった被害者の一人。オーディションさえ受けられなかった映画「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督が、ミラマックス社から「ソルヴィーノとアシュリー・ジャッドを配役するな」と圧力を掛けられた事実を認めたことについて「やっぱり、組織的に足を引っ張られてたんだ!って、涙が出たわ。20年、そうじゃないかって思ってたの。確証をありがとう。でも最近、仕事が入ってくるようになったのよ」と涙ぐましい発言。「扱い難い女優」のレッテルを貼られ、人生を狂わされたソルヴィーノだが、今後も逞しくしなやかに生きて欲しい!と応援したくなる。WENN.com
「チャームド~魔女3姉妹」の頃の面影もない、ローズ・マッゴーワン。パネルインタビューに登場する前に、「あいつの名前を出さないで!」とビデオで指図。ソルヴィーノと比べて、まだまだ傷が深いのか、男嫌いなのか、「大丈夫?」と言いたくなるような言動だった。気狂い呼ばわりしたメディア、~~運動、応援している振りをしたメリル・ストリープ、’バケモノ’の味方をしたNetflix、更に業界全体に物申す!と周囲を全て敵に回しては、空回りに終わるのに...WENN.com
ゴールデン・グローブの授賞式に、女性が団結を象徴して黒衣で参加し、全世界に訴えたこともあって、プレスツアーではほとんど毎日のように、1)内部告発があったので、セクハラ疑惑を捜査中、2)容疑が浮上したので解雇処分にした(ブライアン・シンガー「The Gifted ザ・ギフテッド」「レギオン」のエクゼクティブ・プロデューサー、アンドリュー・クライスバーグ「スーパーガール」「ARROW/アロー」「The Flash/フラッシュ」他)が発表されました。
容疑が晴れたのは、30年の芸能生活のどこかで誰かに告発されたらしいロバート・ネッパーです。但し、「iゾンビ」の制作現場では問題無しと、現在レギュラー出演中の作品に限定されている点が気になります。又、アリー・シーディーのツイートが曖昧で「容疑をかけるなら、顔を出せ!」と居直ったジェームス・フランコは、HBOの「The Deuce」に現在出演中のため、HBOが敢えて持ち出し、容疑は晴れたと発表しました。フランコの演劇学校の生徒5人からセクハラ告発があった事実は、完全に無視されている上、このセクハラ疑惑が実際に捜査されているのか、闇に葬られたのかは不明です。いずれのケースも、過去を遡って調べれば続々と疑惑が浮上するので、臭いものには蓋!式に、「iゾンビ」と「The Deuce」に限って確証は出なかったと言うことなのでしょう。
PBSのポーラ・カーガー社長兼CEOに至っては、インタビュー番組を持っていた前出のチャーリー・ローズと地元LAのタヴィス・スマイリーを解雇した経緯を発表しました。ローズは既に確証が上がっていたので解雇を即決、内部告発だったスマイリーは、セクハラ専門の調査会社に委託した結果の解雇であることを明らかにしました。公共放送は6割強を個人の寄付でまかなっているので、透明にする必要があったものと思われます。又、映画「トゥルー・ライズ」で36歳のスタントマンからセクハラを受けたと最近公表したエリザ・ドゥシュクに対して、「今更だけど、当時聞いていたら、何とかできたのに、残念です」と述べたのは、同作を監督したジェームス・キャメロンでした。本当に、今更ですね...12歳のドゥシュクにそんな勇気があると思いますか?
昨年10月から毎日のように、セクハラ騒動の被害者と加害者が公表され、今日は誰かな?と楽しみにするようになりました。今年に入って下火にはなったものの、エンタメ業界で働く職権濫用できる立場にある男性は、身に覚えがある人も無い人も、いつ何時容疑をかけられるか、暴露されるか、毎日ビクビクしているに違いありません。#MeToo(私も被害者!と名乗るセクハラ告発運動)や#Time's Up(男どもに足蹴にされるのは、もう沢山!男尊女卑&セクハラ撲滅運動)等に代表される女性解放運動に拡大した現状を考えると、この’おっかなびっくり’が作品にいかに影響するのかは、大いに興味のある所です。
しかし、「グレイズ・アナトミー」「スキャンダル」で、職場恋愛を奔放に描いて来たションダ・ライムズは、相変わらず評論家の揚げ足を取りながら、のらりくらりと質問を交わしました。これがライムズの常套手段なので、まともな答えは期待していませんでしたが、「私の作品には、現実には起こり得ないことは山とあるわ。ファンタジーの世界だもの」と述べました。ファンタジーなら職場でくっ付いたり離れたりは許されるのか?の質問に、「『スキャンダル』は残り数話だから、ネタバレは避けたいわ。それに、最終章では恋愛は関係ないし。『殺人を無罪にする方法』については、ピート(ノーウォーク)に聞いて頂戴」と逃げの一手です。ライムズのお墨付き番組に関しては、暗に「私の作品じゃないから、クリエイターか脚本家に聞いてくださいな」とまるで他人事のように言います。的外れな答えで、時間を無駄にしないでくださいな!と言いたくなります。
テレビ業界にとって2017年の一大事は、何と言っても、12月に報道されたディズニーのFox買収劇です。Fox, Fox News, Fox Sportsのみを残して、21世紀フォックス社傘下の20世紀フォックスの映画とテレビ部門をディズニーが買収、拡張する計画です。プレスツアー初日、Fox放送局の共同会長ゲーリー・ニューマンとデーナ・ウォルデンが朝一で、Fox放送局の今後について質疑応答を実施しました。
1)Foxの’現存’の番組がABCに鞍替えすることはない
2)二社間で合意は結ばれたものの、独禁法に触れないと連邦政府に正式認可されるまでに1年~1年半かかると思われる。認可が下りるまでは「通常の業務」を続行する=現在、宙ぶらりん状態と解釈できる
3)買収が成立しても、落ち着くまでには4~5年かかる
と、今年のパイロット制作には何の影響も無さそうな話です。良い子ちゃんの象徴のようなディズニー(+ABC)と、異端児が売りで登場したFoxを統合するには、それなりに時間をかけて、長期戦を覚悟しなければならないに違いありません。FXで数本のシリーズ、限定シリーズを世に送り出したライアン・マーフィーは、プレスツアー時には「様子を見て」で逃げ切りましたが、ライムズに引き続き、そそくさとNetflixに鞍替えしました。捨て台詞は「僕はディズニー風のものなんか書けないから」。テレビ業界の混沌は、まだまだ続きそうです。Netflixに対抗する為に、どんどん規模を大きくするしか手がない地上波局ですが、Appleがテレビ業界に殴り込みをかければ、Netflixですら勝てないとの記事を昨年末に読んだのですが....長い物には巻かれろと、降参する訳にはいかないのでしょう。