2012年夏のTCAプレスツアー参加ーその5 - ハリウッドなう by Meg | TVグルーヴ オフィシャル・ブログ アーカイブ(更新終了)

ハリウッドなう by Meg


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2012年夏のTCAプレスツアー参加ーその5

(2012年10月 2日)

5月にスポンサー向けに発表があった新番組のパイロットを視聴して、TCA夏のプレスツアーに臨むことは、6月14日のブログに記しました。制作陣やキャストが集まって行われるパネルインタビューに備える、我々評論家の予習と言っても良いでしょう。従って、夏のプレスツアーが始まる頃には、読者/視聴者にお薦めできる「今年はこれっ!」作品が、ほとんどの評論家の胸に納められています。

パイロットに惚れ込んでパネルインタビューに参加したものの、「なーんだ、大した事ないじゃん!」と、がっかりしたことはありません。一方、パイロットを送ってこなかったけれど、パネルインタビューでのクリエイターの発言、制作の動機を聞いて興味津々になり、すっかりハマってしまった番組もあります。逆に、パイロットが素晴らしかったのに、ヒットしなかったドラマは数えきれないほどあります。つまり、我々評論家の仕事は、ヒット作を予想することではなく、1)斬新、2)毛色が違う、あるいは3)一ひねりした秀作を嗅ぎ分けて、読者/視聴者にお知らせすることです。

但し、6月の同ブログに書きましたが、TCAという協会会員の構成上、私はメジャーではありません。中年白人男性が会員の圧倒的多数を占めるので、TCA賞候補に挙がるのは、アクション、ドンパチ、血みどろ作品に偏りがち。下手に、私の感性に訴える心温まる作品や、女の自立をテーマにしたドラマなどに肩入れしようものなら、どれほどこっぴどくこき下ろされることか!おじさん評論家は、超自然現象(「ミディアム 霊能者アリソン・デュボア」「弁護士イーライのふしぎな日常」)や神秘的なもの(「メンタル:癒しのカルテ」「THE LISTENER」「Past Life」)は、高く評価しない....どころか食わず嫌いをしています。

私が会員になってから、有無を言わせず、ほとんど全員が秀作!だと認めた作品は、「Friday Night Lights」と「MAD MEN マッドメン」でした。でも、今分析してみれば、いずれも男性目線で描かれているので、「女々しさ」を感じないドラマという共通点があります。2009年は「グッド・ワイフ」、10年は「Lone Star」、11年は不作で特に全員が期待する作品はありませんでした。そして、今年は「Nashville」への期待度が最も高く、続いて「Last Resort」が人気を博しました。

7月27日のABC担当の日の、パネルインタビュー会場は、評論家の敬愛の念と、早く2話以降が観たい!という熱気がこもっていました。「Friday Night Lights」で強かな南部女を演じたコニー・ブリットンが、主役レイナを演じることだけで、私は今シーズン必見のドラマの1本に選びました。

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ホラーものが「苦手」だから、「アメリカン・ホラー・ストーリー」を、歌唱力は「もう一つ」だから「Nashville」を選んだコニー・ブリットン。恐い!と後ずさりしそうな事に、敢えて挑戦するブリットンの勇気に拍手喝采! Andrew Evans / PR Photos

「Nashville」は明らかに女性視聴者向けですが、何故かおじさん評論家たちにも大人気です。経験に何の価値も認めない「新しがり屋」社会で、ベテランがいかに悪戦苦闘しているか、身につまされるからでしょうか?再生を繰り返さなければ生き残れない、中高年にとって生き辛い社会を描いているからでしょうか?クリエイターが、往年の究極の女性映画「テルマ&ルイーズ」の脚本でアカデミー賞を受賞したキャリー・クーリーで、パイロットが良く書けていたことも一因には違いありません。

「キャラを火中に投じるとどうなるか?を観察するのが楽しい」と、クーリーは創作の醍醐味を語りましたが、果たしてレイナは、灰の中から蘇る「火の鳥」になるのでしょうか?「グッド・ワイフ」開始時の、いざ出陣!感があり、早くレイナの第二の人生に同行したいと気が逸ります。但し、この手の「大人の鑑賞に耐える」ドラマは、若い視聴者獲得に躍起になる地上波局にとっては鬼門....「グッド・ワイフ」が大人に受けて、CBS一番のドル箱作品であると認めたように、ABCも「Nashville」の真の価値をふまえて、先行投資して欲しいものです。

「Last Resort」は祖国に裏切られた米国海軍戦略ミサイル原子力潜水艦の艦長、副長以下、乗組員のサバイバル物語なので、おじさん評論家に受けるのは納得できます。私は昔から軍隊モノが好きなのと、スコット・スピードマンが「フェリシティの青春」以来、10年振りに復帰するシリーズなので、期待に胸を膨らませていました。本作は、パイロットからだけでは、「LOST」的ファンタジー/SFアドベンチャーものになるのか、クリエイター/ショーランナーであるショーン・ライアンの前作「ザ・ユニット」の原潜版になるのか、方向が見えないため、5話まで評価を控えたいと公言する評論家も多々います。私は、「LOST」の死に落ちに無駄にした6年を返せ!と未だにむかついているので、「ザ・ユニット」原潜版を期待しています。

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期待を裏切らなかったスコット・スピードマン。「フェリシティの青春」で恋敵を演じたスコット・フォーリーとは異質の魅力に富むスピードマンの活躍を期待したい。 Andrew Evans / PR Photos

その上、スピードマンは、想像通り、寡黙、誠実で、好感度抜群!でした。翌日、ロケ地ハワイに発つと言うのに、遅くまでインタビューに応じてくれ、「フェリシティの青春」を観てくれてありがとう!と感謝されてしまいました。俳優の人間性は、演技にそのまま出ますね?逆に、悪役を演じている人でも、実物が謙虚で、仕事や役作りを熱く語ってくれると、180度転換することもありますが....

27日夜のオールスター・カクテル・レセプションで言葉を交わすことができたのは、「ボディ・オブ・プルーフ 死体の証言」の見目麗しいダナ・デラニーと、今春のぴか一ドラマ「Scandal」のギレルモ・ディアス、ダービー・スタンチフィールド、ケイティー・ロウズ、ベラミー・ヤングの4人でした。ションダ・ライムズ(「グレイズ・アナトミー」「プライベート・プラクティス」)が、実在の危機管理コンサルタントをモデルに創作した「Scandal」は、身代金交渉から殺人容疑晴らしまで、依頼人のスキャンダルを揉み消すことに燃えるワケあり男女6人の物語です。大統領付報道官を退き、危機管理会社を始めたオリヴィア・ポープ(ケリー・ワシントン)自身のスキャンダルは誰がいかに管理するのでしょう?紺屋の白袴的ストーリー展開、会話の面白さ、テンポの早さ、政界の醜い現実などが、視聴者を引きつけて放さない理由でしょう。

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現在、地上波局のドラマでアフリカ系女性が主役を務めるのは、このケリー・ワシントンのみ。現大統領がアフリカ系だと言うのに.... Allen Berezovsky / PR Photos

オリヴィア・ポープは、「グッド・ワイフ」のイーライ・ゴールド(アラン・カミング)の女版です。「Scandal」開始前に、カミングにインタビューする機会があったので、イーライの女版登場について尋ねたところ、「マジで?」との反応でした。「イーライか、ヴァンパイアーか?!」と、テレビ番組の主人公にも流行りがあることを指摘した上で、「イーライ役を演じるに当たり、危機管理コンサルタントに話を聞く余裕がなく、却って破天荒な役作りができた」と怪我の功名話を聞き出すことに成功しました! 実は、イーライ役はネイサン・レインが演じる筈だったこと、ご存知でしょうか?面白いことに、レインは「グッド・ワイフ」シーズン4に、違う役で登場しています。これって、ネタバレではないですよね?

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「グッド・ワイフ」シーズン4の第一話から登場するネイサン・レイン。やっとスケジュールの都合がついたのか?カミングのイーライ役が余りにも見事なので、何らかの形で番組に貢献したかったのか? Sylvain Gaboury / PR Photos

21世紀に入って、ABCを救った三種の神器のうち「LOST」と「デスパレートな妻たち」が終了し、残るは「グレイズ」のみになってしまいました。二器にとって代わる秀作を求めて、ドラマ開拓精神旺盛なABCに声援を送りたいと思います。


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