2012年夏のTCAプレスツアーに参加ーその1
Television Critics Association (TCA)プレスツアーは、全米とカナダから230名が年に2回LAに集い、新番組(地上波局とケーブル局)を内覧する年中行事です。クリエイターは新番組創作や配役の苦労話を、キャストは登板の経緯や役作りを語るパネルインタビューが早朝から夕方まで実施され、夜はオールスター・パーティーやカクテル・レセプションで個別にインタビューする機会が設けられます。また、TCA会員のためにセットを訪問する1日も企画されます。評論家にとっては、情報収集の絶好のチャンスですが、同時に地上波局やケーブル局の制作や編成に携わるお偉方と親交を深める場でもあります。
TCAは約30年前、新聞や雑誌など紙媒体のテレビ評論家が集まって設立した協会で、プレスツアーで評論家の立場を保護することが使命です。通常、「ジャンケット」と呼ばれるイベントは宣伝活動=接待ですが、TCAプレスツアーは自費参加の情報収集活動なので、評論家は「中立」の立場で報道することができます。ジャーナリズムと宣伝活動の境界線を明確にした組織として、映画や他の業界の評論家からは高く評価されています。
2012年夏のプレスツアーは、7月21日から8月3日までビバリー・ヒルトンで開催されました。21〜22日の2日間に渡り、公共放送PBSが18作品を紹介してくれました。PBSは、米国民の教育を目指して設立された非営利団体。350余りの会員局は地元の企業、有志/視聴者から運営資金を募り、本部が第三者から購入した番組に放映権を支払うシステムです。ドキュメンタリー、ニュース番組、子供用教育番組やBBCから買い付けたドラマなどが主流。PBSが担当する2日間の魅力は、作家や歌手など普段接点の全くない人、歴史的功績を残した人、科学分野で活躍するプロなど、「こんな方にお目にかかれるなんて、光栄の至り!」の瞬間です。
PBS=セサミストリートと連想するほどの子供教育番組も、放送開始以来43年になる。キャラと声優兼人形師たちに囲まれて「はい、ポーズ!」。ピンク色のアビー・カダビーが私のお気に入りだ。
2010年に出版されたクリストフ、ウーダンの著書「ハーフ・ザ・スカイ 彼女たちが世界の希望に変わるまで」を映像化した「half the sky」のパネルインタビューに参加するメグ・ライアン、アメリカ・フェレーラ、ダイアン・レインの3女優が今夏の「瞬間!」だと期待していたのですが....
左からチャーマイフ、ライアン、クリストフ、レイン、バス、フェレーラ、ウーダン。パネルインタビューの様子。Photo: Rahoul Ghose/PBS
発展途上国で頻発する暴力や虐待から女性を救出し、啓蒙することに身も心も捧げる各地の草の根運動のリーダーを、女優6人が訪ね実地体験をするドキュメンタリーです。私は、前日DVDを視聴し、いかにパワフルなドキュメンタリーに仕上がっているかを充分承知の上で参加ました。3メートルほど先の舞台に座っている憧れのメグ・ライアン。シンプルなワンピース姿、薄化粧で登場しましたが、拒食症?と疑うほど腕も足も細く、顔色も健康的とは言えません。小柄で可愛いイメージをずっと抱いてきたので、伸びきったコスモスのようなライアンに、はっきり言ってがっかりしました。やはり、歳には勝てないのでしょう。でも、けだるい感じのレインはそれなりに美しく、フェレーラはぴちぴちの健康美でした。
シンプルなワンピース姿で登場したライアン。お疲れなのか?歳には勝てないのか?ボトックスの濫用という噂も.... Photo: Rahoul Ghose/PBS
今夏の「瞬間!」は、フェレーラをインドで迎えたアーミ・バスでした。カースト制度が健在なインドで、裕福な家庭で育ったバスが行き着いたのは、コルカタの赤線地帯です。代々、売春しか生きる手だてのない、カースト制度の底辺の女性を救い出す仕事に身を捧げている有難〜い御仁。赤線地帯に事務所を設けたバスは、夫に結婚か仕事か?の選択を迫られ、離婚までして売春婦に生きる希望を与えることに身を投じています。人助けに献身するバスは後光が差して、天下の女優など比べ物にならないほど、いきいき、きらきら輝いていました。思わず、私に何ができるのだろう?と考えずにはいられない、人間の「元気、勇気、やる気」に火をつけてくれる素晴らしいドキュメンタリーです。日本でも、放送されると良いですね。
女優が3人集まっても太刀打ちできない、目映いばかりのバス。女性啓蒙に情熱を燃やすバスが、今夏の「瞬間!」だった。Photo: Rahoul Ghose/PBS