事実は小説よりも奇なり!を実証する最近のドキュメンタリーが面白い - ハリウッドなう by Meg | TVグルーヴ オフィシャル・ブログ アーカイブ(更新終了)

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事実は小説よりも奇なり!を実証する最近のドキュメンタリーが面白い

(2015年9月27日)

1999年に米国で制作されたドラマは29本でしたが、今年は400本に至りました。奇しくも、私がテレビ評論家として業界を内側から見るようになったのも、過去15年ほどになります。この数字を見た時に、私が2010年あたりから、唸るほどの秀作が出現しなくなったと嘆くのは、この水増し状況が原因だと気が付きました。13倍強に希釈すれば、1本1本の濃度が薄まる=悪くはないけれど、毎週続きを観たい!と思わない凡作がほとんどなワケです。むやみに数を出せば良いってもんではないと実証されたことになります。

秀作を生み出す力のあるクリエイターの数に限りがあるので、並みの放送作家は、苦肉の策として映画やテレビシリーズのリメイクやスピンオフ、あるいはジャンルを超えたハイブリッドなどをひねり出しますが…それでも、スピルバーグのお墨付き作品がどれもヒットしないのは、視聴者の目が肥えているからでしょう。更に、映画とテレビの境界線がぶれ、映画館からお茶の間に’鳴り物入り’スーパーヒーローモノが多数侵入して幅を利かせ、ユニークなドラマが生まれ難い環境になってしまいました。

今秋、ユニークで斬新な作品は、「Flash & Bone」(9月3日にご紹介)「Crazy Ex-Girlfriend」(9月7日)と「The Art of More」(9月10日)の3本しかありません。実に情けない限りです。

暴力沙汰で目も当てられないドラマや、結末見え見えの面白くない作品に無駄な時間を費やしたくないので、当然のことながら最近とみにドキュメンタリーに手が出てしまいます。特記に値する作品として
2013年1月30日にHBO「Mea Maxima Culpa: Silence in the House of God」
2013年2月28日にPBS「The Central Park Five」
2014年4月21日にPBS「A Fragile Trust」
をご紹介しました。自分なりに分析してみたところ、所謂’暴露モノ’ドキュメンタリーは、何度観ても飽きが来ないと判明しました。悪事や嘘を重ねて来たにも関わらず、良心の呵責を感じるどころか、周囲の人間や生い立ちの所為にするサイコバスの’とどのつまり’が明確で、爽快感があるからでしょう。

2014年11月からShowtimeで繰り返し放送されている「Stop at Nothing: The Lance Armstrong Story」は、癌を克服してツール・ド・フランス7連覇を果たし、自転車ロードレース界のみならず「叩き上げ根性」や「アメリカン・ドリーム」の権化として一世を風靡したランス・アームストロングの栄枯盛衰を描いています。

【動画】「Stop At Nothing: The Lance Armstrong Story」トレーラー

ドーピング疑惑で痛い所を突かれると猛烈な攻撃に出る、後ろめたさの裏返しとして責められる前に相手を責める(名誉毀損や損害賠償などの訴訟好きとして有名)など、アームストロングを敵に回した自転車レースの先輩/同輩/後輩や使用人、ジャーナリストなどへのマフィア的行動を記録した作品です。プロデビューから、’時代の寵児’がタイトル剥奪、水泳、トライアスロンを含む自転車競技から永久追放されるまでを描きます。

2010年12月米国で公開された映画「All Good Things」(邦題「幸せの行方」)をご覧になった方に特にお薦めしたいのは、映画を制作、演出したアンドリュー・ジャレッキーがHBOのために制作した「The Jinx: The Life and Deaths of Robert Durst」です。

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過去10年余り、ロバート・ダーストで頭が一杯だったアンドリュー・ジャレッキー。生まれ育った環境は同じでも、「NYの黒幕一家の御曹司に掛けられた期待とプレッシャーに押し潰されたダーストは、世捨て人になるしか道がなかったように見受けた」と、ジャレッキーは印象を述べた。確かに、ダーストの眼は完全に光を失って、魂が抜けたようだ。 WENN.com

映画でライアン・ゴスリングが演じたキャラのモデル、NYの不動産王ダースト一族の長男ロバート・ダースト(当年とって71歳)の気味悪い生き様と妻、友人、隣人の謎の死を6話で検証するドキュメンタリー・シリーズです。

【動画】「THE JINX - The Life and Deaths of Robert Durst」トレーラー

本作も、アームストロング同様、良心の呵責、他人への思いやりに欠け、コントロールが効かなくなると周囲や環境の所為にするサイコバスの成れの果てを全米に披露しました。動かぬ証拠をダーストに提示したシリーズ最終回で、マイクを付けたまま入ったトイレで呟いた犯行を認めるかのような独り言が、そっくりそのまま放送され、後日逮捕、追訴に繋がり、ドキュメンタリーの力を証明する結果となりました。

今年1月8日に実施された同シリーズのパネルインタビューで、ジャレッキーは初めてダーストと会った時の模様を「握手した時に、少なくともガルベストンで隣人の遺体を解体した『手』を握っているんだ!と妙な気持ちになった」と語りました。映画同様、約5年の歳月をかけてドキュメンタリーを制作した動機について、「生まれ育った環境が酷似しているので、どこでどう間違うとサイコパスになるのか?に大いに興味があった」と言います。それでも、興味半分、恐怖半分だったようで、「ダーストの操り人形/スポークスマンに利用されてなるものか!視聴者に判断を委ねるために、飽くまでも証言の一部とするのが自分の使命だと信じていた」とジャレッキーは固く決心して撮影に臨みました。

TCA賞、エミー賞受賞時、ジャレッキーは「これまで完全に無視されてきた妻キャシーさんの遺族に、何らかの結末を提供することができて嬉しい」と述べました。それにしても、金と力で’お裁き’を巧みに免れてきたダーストですから、逮捕されるまでは’消される’のでは?と危惧して、「一家で身を隠していた」と言いますから、サイコバスを暴露するドキュメンタリー制作は命がけ!です。

PBSの「The Central Park Five」のように、真犯人の逮捕に繋がったり、「The Jinx」のように逮捕、追訴など、好ましい結果を生み出すドキュメンタリーは、爽快感がありますが、今秋プレミアが待たれる次の3作は、遺憾ながら問題提起に終わっています。

9月28日、HBOで放送される「San Francisco 2.0」は、ITに乗っ取られた「霧の町」サンフランシスコの現状を描くドキュメンタリーです。ゴールドラッシュで発展、60年代はヒッピー、70年代はゲイが集まる反体制文化の中心地として全世界に名を馳せたサンフランシスコ。しかし、IT産業が集中していた地域(パロアルトやサンホセなど)が既に満杯となり、近年サンフランシスコに住んでIT企業のバスで通勤する若者が急増していることに目を付けたデベロッパーが、あらゆる手を使ってIT成金しか住めない町に創り替えようとしています。ここ数年、毎年サンフランシスコに出張する機会に恵まれ、建設ブームでLAとは打って変わって活気に満ちているなーと肌で感じていましたが、本作はブームの裏を暴き出します。

【動画】「San Francisco 2.0 」トレーラー

本ドキュメンタリーは、「デジタル・ゴールドラッシュ」と呼ばれる好景気再来の裏で、住み慣れた町を追い出されて路頭に迷っている庶民が急増している現実を指摘します。しかし、一攫千金を夢見て博打打ちが集まって来る町は、物理的/金銭的/精神的に住めない庶民を排出します。マンハッタン、ヴァンクーバー、ロンドンなど、過去の例は多々あります。資本主義社会では、致し方のないことですが….本作を制作したアレクザンドラ・ペローシーは、解決策のヒントさえ与えてくれませんでした。

10月10日放送開始となるShowtimeの「Prophet’s Prey」は、カルト教団の指導者が終身刑+20年の禁固刑に服しているにも関わらず、1万人余りの信徒は刑務所から送られて来る説教を’殉教者の声’と崇め、益々団結を固めていると言う、いとも恐ろしく、悲しい事実を突きつけます。

【動画】「Prophet's Prey 」トレーラー

一夫多妻制を飽くまで主張してモルモン教から分派せざるを得なくなったThe Fundamentalist Church of Jesus Christ of Latter-Day Saints(FLDS=末日聖徒イエス・キリスト原理主義教会)の歴史に始まり、2002年教団の指導者となったウォレン・ジェフス(当時、46歳)の「神に選ばれた預言者」としての独裁振りと狂気の沙汰を綴ります。信徒が外界で稼いで来た収入を吸い上げて構築した孤立共同体は、自給自足、外界から完全に隔離して、信徒の反発の芽をもぎ取ります。ジェフスは’神のお告げ’と称して理不尽な規則をでっち上げ、従わない者は最後の審判で刑罰に処されると脅します。信徒は幼い頃から労働にふされ、一般教養ではなくFLDSの歴史を14~15歳まで叩き込まれて、洗脳されます。重婚や未成年者への性的行為がもっともセンセーショナルに取り沙汰されていますが、ジェフスが服役しているにも関わらず、信徒の盲目的な従順=信仰が何よりも怖いと思いました。何世代にも渡って、この手のカルト教団で洗脳されると、常識や教育を施されていないため、考えることができなくなっているのでしょう。刑務所を解錠したのに、囚人が脱獄したがらないのは、外界で生き延びる知恵も勇気も好奇心もとっくの昔に摘み取られてしまい、恐怖におののいているからに違いありません。信仰の刑務所に閉じ込められている人を救うことは、至難の技だと実証した、切ないドキュメンタリーです。

最後は、米国では11月16日PBSで放送予定のドキュメンタリー「India’s Daughter」です。9月15日の「インド色濃い?2015~16年シーズンの新作」で既にご紹介しましたが、2012年12月にニューデリーで起きた集団暴行殺害事件を検証する生々しいドキュメンタリーです。本作も「San Francisco 2.0」や「Prophet’s Prey」と同じく、男尊女卑やカースト制度の虜になっているインド人を解放するのは、外圧と同時に教育で内側から変える努力です。気が遠くなる話ですが、鉄は熱いうちに打て!の言葉通り、今こそはじめの一歩を踏み出すしかありません。

【動画】「India’s Daughter」トレーラー


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