プレスツアー6、前途多難を棚に上げるFOX - ハリウッドなう by Meg | TVグルーヴ オフィシャル・ブログ アーカイブ(更新終了)

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プレスツアー6、前途多難を棚に上げるFOX

(2013年9月19日)

7月27日にNBCが発表した統計によれば、先シーズンの視聴率は軒並み降下しており、FOXは21%減、ABCで13%減、CBS8%減だそうです。確かに、あれだけ視聴率の高かった「アメリカン・アイドル」が審査員同士の確執で大幅減、期待の「Xファクター」も思ったほど視聴率がとれませんでした。

5日後、FOXエンタテイメントのケビン・ライリー会長は、放送翌日の視聴率だけを取り上げて、ヒットか駄作かを決めるのは止めて欲しいと、質疑応答の4分の1余りの時間を費やして説明しました。従来の「視聴率」に問題があることは、配信形態が増え始めたここ10年ほど誰もが指摘しており、放送翌日、放送後+DVR再生3日まで、放送後+7日までなどが、現在指標として使われています。しかし、ライリー会長は、30日あるいはシーズン単位に引き延ばさない限り、真の「視聴回数」は見えてこないと主張します。昨年、ケーブル局が放送したオリジナル作品は何と1、050本ですが、地上波局環境の中で生き残れる視聴率を獲得できたのは4作品であることを指摘した上で、1シーズンの累積視聴回数は「ニューガール」が1億8500万回、「ザ・フォロイング」は2億8300万回、「アメアイ」5億6000万回だったと発表しました。FX局を初めとするFOX系列会社は、何故かNetflixが視聴者数を明かさないことを目の敵にしています。自局に秀作が出ないことを棚に上げて、今回もNetflixは「誰が観ているんだか?」とあてこすりを言います。エミー賞候補に上がった「House of Cards」への面当てでしょう。

更に、今回の方針は、
1)シーズンを9月〜5月に限定せず、年間を通じて新作を発表して行く
2)放送曜日を限定せず(現在、激戦日は木曜日と日曜日)、特にすっかり忘れ去られた金曜日にもオリジナル作品を放送する
3)1シーズン=22話は過去の遺物。起承転結が明白な「イベント・シリーズ」を増やして行く
4)海外放送権を先に販売して、制作費に回す
と発表しました。

1)は、FOXが数年毎に持ち出す謳い文句ですが、これまで長続きした試しがありません。3)の「イベント・シリーズ」とは、所謂ケーブル方式です。それが証拠に、ライリー会長は、シリーズが映画並みの映像を誇ると言う意味で「HBO方式」と称しましたが、要するにプレミアケーブル局だけでなく、ほとんどのケーブル局が実施している、13〜15話を制作してしまって、中断せずにシリーズを一気放送する方法を指します。ABCは限定シリーズと呼んでいますし、ライブ放送を観る必要がある盛り上がり性の高いリアリティー番組を「イベント・シリーズ」と呼ぶ局もあり、各地上波局が21世紀の制作/放送システムを暗中模索していることが明らかです。但し、口が裂けてもケーブル方式に切り替えるとは言えない、言いたくないのでしょう。

今秋の新作は、ドラマ「Almost Human」「Sleepy Hollow」2本と、コメディー3作「Brooklyn Nine-Nine」「Dads」「Enlisted」の計5本です。

他局同様、敢えてお薦めするなら...と極めて消極的ではありますが、FOXの新作の中では「Almost Human」が、面白そうです。人間より繊細なアンドロイドのドリアン(マイケル・イーリー)と、長年感情を押し殺して働いてきたケネックス刑事(カール・アーバン)の近未来の刑事コンビドラマです。

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「Almost Human」でアンドロイドを演じるイーリー(左)、殻に閉じこもったジョン・ケネックス刑事を演じるアーバン。 Glenn Harris, Andrew Evans / PR Photos

基本的にSFモノは大いに苦手な私ですが....護身用の武器として刑事に与えられたアンドロイドが、人間の何倍も繊細だったらと言う仮定は、斬新で興味津々です。「人間味とは何なのか?を探ることが大好き」と語るクリエイター、J.H.ワイマンと、イーリーとアーバンのコンビが探るテーマに惹かれました。人間に近づきたいと努力した「スタートレック」のミスター・スポックやデータと異なり、繊細で、気を遣い過ぎて廃盤になったドリアンが4年振りに、憧れの職業に就いたら....という、極めて斬新な切り口が光ります。能面に改善された最新版アンドロイドに、感情で捜査する劣等品とドリアンが誹られるなど、近未来の会話が想定されている点も極めて面白いと思います。但し、「フリンジ」に関与していた放送作家がクリエイターですし、J.J.エイブラムスが関わっているだけに、テクノロジーや神話に凝り固まって行く可能性は大です。故に、少々控え目の「お薦め」作で、2話以降もワイマンが初心を忘れないことを祈ります。

【動画】 「Almost Human」トレーラー

夜、パーティーで、イーリーと歓談しました。USA局の「Common Law」のインタビューしたことがありますが、数日後「グッドワイフ」でのボンド役だったと気が付いたほど、役によって七変化できる役者です。今回の役所について、「人間としての履歴がないアンドロイドですから、どう演じたものか....人情、思いやりとは何か?などを模索する面白い作品です」と強調しました。この役を演じるようになってから、周囲の人間を注意深く観察するようになったそうです。人間性を探求するひねりの利いたドラマにして欲しいものです。

一方、コメディー「Enlisted」は、久々の軍隊モノです。フロリダ州にあるマッギー常設駐屯地に配属されたピート・ヒル二等軍曹(ジェフ・スタルツ)は、弟デリック伍長(クリス・ロウェル)とランディー二等兵(パーカー・ヤング)と久し振りに再会。駐屯地の留守番役を授かった箸にも棒にもかからない小隊に活を入れようとしますが、弟達が足を引っ張ることになります。かなり非現実的なドタバタ喜劇ですが、コメディーは初めてのロウェル(「プラプラ」)と、山椒は小粒でもぴりりと辛いを体現するタニア・グナディ(「アーロン・ストーン」)が好演しています。

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「Enlisted」で初めてコメディーに挑戦するロウェル(左)、ジェットコースターのCFから芸能界入りしたインドネシアからの移民グナディ。 Tina Gill, Koi Sojer / PR Photos

【動画】 「Enlisted」トレーラー

新作のパイロットだけは観るをモットーにしてきた私ですが、正直なところタイトルや前評判から判断して、悪夢にうなされそうな作品は最近パスしています。「ザ・フォロイング」「Hannibal」に引き続き、「Sleepy Hollow」もパスして、プレスツアーに臨んだのですが....

8月1日、朝一番のパネルインタビューに登場したトム・マイソンにすっかり魅了され、早速パイロットを観るという前例のない結果となりました。しかも、同作はホラー+サスペンス+ファンタジーのジャンルに属し、血腥いシーンが多々あり、観たくない作品なのです。ワシントン・アーヴィングの怪奇小説「スリーピー・ホロウ」のイカボッド・クレーンが「リップ・ヴァン・ウィンクル」のように、250年の眠りから覚め、現代のスリーピー・ホロウで起こる怪奇事件解決に乗り出すドラマです。奴隷解放など「自由」を求めて独立戦争で闘ったクレーンが、250年後のアメリカの現状をどう見るか?がとても興味深い点です。ホラー+サスペンス+ファンタジーですが、マイソンは「英国人の観点は、僕自身の観点でもあるので、地で行けます」と語り、第三者の視点からアメリカを描く私好みのドラマになる可能性を示唆しました。

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「Sleepy Hollow」で英軍から寝返り、ジョージ・ワシントン将軍に仕えたイカボッド・クレーンを演じるマイソン。250年前に離ればなれになった妻カトリーナを救うのもイカボッドの使命だが、夢の中で魔女だと判明する。 Landmark / PR Photos

実際にパイロットを観ると、首無し騎士、死神、魔女などが登場する反面、クレーンの台詞や女性への対応がユーモアたっぷりに書かれていて、恐いけれど、マイソンの出ているシーンは観たい!と思いました。TNTの新作「Mob City」と同様、ほとんど早送りして、お目当ての俳優のシーンだけを観ることになりそうです。プレスツアー4で述べた「実物の方が断然魅力的で、シリーズの続きを観る気になった」の最たる俳優が、マイソンでした。パーティーでお目にかかれなかったのが、残念です。

【動画】 「Sleepy Hollow」トレーラー

ABCの「S.H.E.L.D.」発表にあたり、警備が通常の10倍と述べましたが、FOXは「アメアイ」のサイモン・コーウェルと出産したばかりの不倫相手ローレン・シルバーマンを、まるでシークレット・サービス気取りで守る警備員軍団が評論家の神経を逆撫でしました。プレスツアーを何だと思っているのでしょう?我々、プロは、コーウェルの不倫など、面白くもおかしくもありません。第一に、そんなにぴりぴりするのなら、シルバーマンなど連れて来ないでください。それを、まるでパパラッチから身を守るかのように、防衛態勢に入るから、余計に人目につくのです。「隠密」の概念を知らないのでしょうか?それとも、注目を浴びたいから、金魚のふんのように、警備員を従えて登場するのでしょうか?ったく!迷惑も良い所です。誰も、興味ありませんから....


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